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福岡高等裁判所 平成6年(ネ)236号 判決

控訴人

千代田土地株式会社

右代表者代表取締役

岡野達也

右訴訟代理人弁護士

藤井克已

髙橋隆

被控訴人

ダイア建設株式会社

右代表者代表取締役

下津寛徳

右訴訟代理人弁護士

春山九州男

高橋浩文

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  当審における予備的請求に基づき、被控訴人は、控訴人に対し、金三九六万〇八二二円及びこれに対する平成三年七月六日から右支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人の当審におけるその余の予備的請求を棄却する。

四  訴訟費用は一・二審を通じてこれを四〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

五  この判決は、二項に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は、控訴人に対し、一億五九六〇万円及びこれに対する平成三年七月六日から右支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は一・二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行の宣言

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

3  当審における控訴人の予備的請求

(一)  被控訴人は、控訴人に対し、四二六九万二九四〇円及びこれに対する平成三年七月六日から右支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(三)  控訴費用は被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行の宣言

4  当審における控訴人の予備的請求に対する答弁

当審における予備的請求を棄却する。

二  当事者の主張

1  主位的請求に関する当事者の主張については、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決書二枚目表九行目から同裏二行目まで(請求原因2(一))を次のとおり改め、同七行目の「同日」を「平成三年五月二二日」と改める。

「2(一) 控訴人は、平成三年一月下旬ころ(又は同年二月二五日ころ、又は同年五月二二日)、被控訴人九州支店長宮崎眞(以下、宮崎という。)との間で、控訴人所有にかかる原判決書添付物件目録(一)の土地(以下、本件土地という。)を原判決書添付の別紙記載の約定で売り渡す旨の契約(以下、本件売買契約という。)を締結した。

仮にそうでないとしても、少なくとも原判決書添付の別紙記載の違約金条項を伴う本件売買契約の予約を締結した。」

(二)  同三枚目表四行目の「本件土地等売買契約」を「本件売買契約」と、同裏五行目から六行目にかけての「本件土地上に原告が予定建物を建築し、本件土地及び予定建物を」を「本件土地及び同土地上に控訴人が建築する予定の原判決書添付物件目録(二)の建物(以下、予定建物という。)を」とそれぞれ改める。

2  当審における予備的請求について

(一)  請求原因

(1) 仮に本件売買契約ないし予約が成立していないとしても、被控訴人に契約締結上の過失があることは明白であるから、被控訴人は、控訴人に対し、誠実交渉義務違反による債務不履行責任又は不法行為責任に基づく損害の賠償として、次のとおりの金員を支払う義務がある。

① 被控訴人の分譲マンション用地として本件土地を購入した費用(合計三四〇万九二六〇円)

ア 仲介手数料 一五〇万円

イ 字図閲覧等費用七万〇六四〇円

ウ 所有権移転登記費用

一一九万〇七二〇円

エ 減反代替米代金 五万円

オ 不動産取得税五〇万六九〇〇円

カ 売買代金領収証印紙代

九万一〇〇〇円

② 分譲マンション用の開発に関する農地転用許可と開発行為などの費用(合計一五二一万一五四八円)

ア 下水道負担金二三万二三五〇円

イ 農地転用申請等費用

一六万七九〇〇円

ウ 水路蓋架設料 四二万円

エ 地目変更、地積更正、分筆登記等費用 二八万八二一八円

オ 開発申請その他代行手数料

二〇〇万三〇八〇円

カ 開発工事代 一二一〇万円

③ 本件土地取得のための銀行借入利息等(一四〇七万二一三二円)

④ 慰謝料(一〇〇〇万円)

(2) よって、控訴人は、被控訴人に対し、予備的に、債務不履行又は不法行為としての契約締結上の過失に基づく損害の賠償として、四二六九万二九四〇円及びこれに対する平成三年七月六日から右支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二)  請求原因に対する認否及び反論

(1) 請求原因事実は不知ないし争う。

(2) 本件は、両当事者とも不動産取引のプロである上、控訴人は本件土地を坪当たり二二万円で仕入れて坪当たり五〇万円で被控訴人に転売し、約一億二五〇〇万円の利益を上げようとしたもので、ハイリスク・ハイリターンの経済原理が貫徹する業界内部の取引に該当し、自己責任の原理が貫徹されるべき分野であるから、そもそも契約締結上の過失の適用領域ではない。

(三)  抗弁(損害の填補、損益相殺ないし過失相殺)

仮に、控訴人に何等かの損害が発生したとしても、農地であった本件土地が宅地化されたことにより、控訴人は客観的・経済的利益を得ているし、被控訴人との本件土地の売買が実現しないことが確定した後の平成三年一二月三日、本件土地を学校法人久留米大学(以下、久留米大学という。)に売却しているから、控訴人の主張する費用相当額の損害は、右宅地化及び売却の利益の取得により填補されたものと言うべきであるし、そうでないとしても、右費用相当額の出費は全く無駄になってはおらず、かえって久留米大学に対する売却により、費用分は利益として回収したはずであるから、損益相殺ないし過失相殺の法理の類推により、大幅に減額されるべきである。

(四)  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、主張のころに控訴人が本件土地を久留米大学に売却したことは認め、その余の事実は否認する。

三  証拠

証拠の関係は、原審及び当審記録中の各書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  主位的請求について

当裁判所は、控訴人の主位的請求(違約損害賠償請求)を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決理由説示(原判決書四枚目表五行目から同一〇枚目表末行まで)のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決書四枚目裏六行目の「同宮崎の各証言、原告代表者石橋千睦本人尋問の結果」を「同宮崎、同石橋千睦の各証言」と、同八行目の「原告代表者」を「控訴人代表取締役」とそれぞれ改める。

(二)  同五枚目裏二行目の「申請をなし」を「申請書類を提出し」と改め、同行の「第二八号証」の次に「(枝番号を含む)」を加え、同五行目の「本件土地」を「原判決書添付物件目録(一)の(1)、(3)の各土地」と改め、同六行目の「届出をなし、」の次に「これが受理されて、平成二年一〇月四日に地目が宅地に変更され、」を、同九行目の「平成二年」の前に「その後、控訴人において宅地造成工事に着手してこれを完成させ、」をそれぞれ加える。

(三)  同六枚目裏末行から同七枚目表初行にかけての「本件土地の仕入検討について被告本社の了解を得た。」を「本件土地の購入を検討することについて被控訴人本社の了解を得た。」と、同裏七行目から八行目にかけての「曾根崎」を「曽根崎」とそれぞれ改める。

(四)  同八枚目裏初行の「押捺したうえ、」を「押捺し、右協定書原本二通にそれぞれ二〇万円の印紙を貼付した上、」と、同九行目の「ところが、」を「以上の経過において、被控訴人九州支店としては、本社の稟議決裁が得られることを期待して鋭意手続きを進めたが、」とそれぞれ改める。

(五)  同一〇枚目表七行目から八行目にかけての括弧書き部分を削る。

二  当審における予備的請求について

1  主位的請求に対する判断の箇所で認定したところによれば、被控訴人九州支店の担当者は、控訴人に対し、平成二年五月二三日に本件土地を分譲マンション用地として「専有面積買い」したい旨を申し入れた後、本件土地の開発許可と地目変更の申請手続きを行った上で宅地にして引き渡すよう更に申し入れたところ、控訴人においてこれを了承し、開発許可を得ると共に地目変更手続きも了し、宅地造成工事も完成したところから、被控訴人九州支店は、同年一一月一三日に本件土地を坪当たり五五万円で買い受ける旨の不動産買付証明書を交付し(なお、同書面には有効期限を三か月とし、被控訴人本社の稟議決裁がおりることを条件とする旨が記載されていたが、宮崎は、同時に、前向きに進めるよう精一杯努力する旨を控訴人に伝えている。)、その後、同年一二月二五日に至って今度は坪単価値下げの申入れを行い、坪単価を五〇万円とすることで控訴人の了承を得、控訴人から平成三年一月二八日に坪単価を同額とする売渡承諾書の交付を受けている。そして、その後も被控訴人九州支店は、マンション購入者が住宅金融公庫から融資を受けられるようにするために(原審証人青木孝彦の証言)、被控訴人が発注者であることを前提として住宅金融公庫の事業承認を得たほか、自己名義で予定建物の建築確認申請を行って建築確認を取ったり、本件土地上にマンションのための電柱等の設置工事をさせたりし、更に、予定建物の工事主体、右工事代金支払方法等に関する控訴人・被控訴人・不動産建設株式会社三者間の覚書や右単価を前提として本件売買契約を締結する旨の土地付区分建物売買に関する協定書(案)を自ら作成して、同年五月一五日、これをファクシミリで控訴人に送信し、同月二一日、右各書面に署名を求め、これに署名押印を受けたものを控訴人から受領するに際し、同月三〇日に売買契約書等の作成と代金決済を行うことや地鎮祭の日取りを確認し、同月二三日には売買契約書の案をファクシミリで送信したというのであって、前記認定のとおり、本件売買契約ないし予約が成立したと認めるに足りないものの、以上に認定した一連の事実経過に鑑みると、本件売買契約の締結に向けて、むしろ被控訴人の方が主導的に手続きを進めていたことが明らかである。確かに、前記買付証明書には被控訴人本社の稟議決裁を条件とする旨が記載されており、控訴人としてもこの点は認識していたものではあるが、宮崎は契約締結に向けて精一杯努力することを約束しており、右時点以降、被控訴人が本件土地の購入を断念する旨の通知をするまでの間に右条件が改めて確認された形跡を窺うことはできない上、本件売買契約締結に向けられた被控訴人九州支店のその後の行動、交渉態度等に鑑みると、控訴人において右交渉の結果に沿った本件売買契約が成立することを期待し、そのための準備を進めたのも無理からぬものがあったと言うべきである。そして、契約締結の準備がこのような段階にまで至った場合には、被控訴人としても控訴人の右期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に努めるべき信義則上の注意義務があると解するのが相当であって、被控訴人が正当な理由もないのに控訴人との契約締結を拒んだ場合には控訴人に対する不法行為が成立するものと言うべきである。そして、被控訴人が本件売買契約の締結をしなかったことにつき正当な理由があることを認めるに足りないから、被控訴人の右行為は少なくとも過失による不法行為を構成するものというべきである。

この点に関し、被控訴人は、本件はそもそも契約締結上の過失の適用領域ではない旨主張するが、たとえ不動産取引の専門業者間の取引であって、買主が右取引により高額の利益を得ようとしていた場合であっても、契約締結に至る準備的段階(交渉過程)において信義則が適用されることは自明のことであって、被控訴人が主張するように自己責任の原理を考慮するとしても、少なくとも本件のように、被控訴人が主導的に契約締結に向けての手続きを進め、その結果被控訴人本社の稟議決裁さえおりれば売買契約が成立する段階にまで進んでいる事案においては、契約締結上の過失は当然に考慮されるべきであって、被控訴人の右主張を採用することはできない。

したがって、被控訴人は、控訴人に対してこれにより控訴人が被った損害を賠償すべき責任がある。

2  そこで、控訴人の損害の点について順次検討する。

(一)  控訴人は、本件土地の購入に要した費用(請求原因(1)①)が損害に当たる旨主張するが、証拠(前掲甲第五五号証、成立に争いのない甲第八四号証、原審及び当審証人石橋千睦の証言、当審での調査嘱託の結果)によれば、控訴人は、被控訴人担当者の訪問を受ける前から、本件土地を購入していったん所有権移転登記を受けた上で、同土地上に一戸建ての木造建物を建築し、これを戸建て分譲する計画を有しており(控訴人の代表取締役である当審証人石橋は、本件土地に隣接して久留米大学医学部があるため、その教職員住宅等として必ず完売できると確信していた旨当審で供述するところである。)、平成元年夏ころには本件土地の買取交渉を開始してその一部については手付金も支払い、同年四月一二日には、株式会社福岡銀行花畑支店に対して、本件土地を分譲住宅地として造成し、これを七区画に分けて、同年八月からを分譲開始し、販売期間を一〇か月として、約二八〇〇万円の粗利益を見込んでいるとして、一億二〇〇〇万円の融資を申し込んだこと(控訴人は、本件土地の購入手続きや事業計画は白紙の状態であり、仮に第三者に転売するにしても中間省略登記手続きを利用できた旨主張し、石橋千睦作成の陳述書(甲第八四号証)にはこれに副う供述記載があるが、同人は、当審において、同銀行に対する融資申込みの時点では本件土地の名義をいったん控訴人に移転する計画であったことを認めており、これに当審での調査嘱託の結果をも併せ考慮すると、右供述記載を採用することはできない。)が認められ、右の事実によれば、控訴人による本件土地の購入、造成、販売の計画は、相当程度の具体性を有していたものと解されるから、被控訴人からの専有面積買いの話が持ち込まれなくても、当初の計画どおり本件土地を購入して所有権移転登記も経由した公算が強く、従って、控訴人が本件土地の購入に要した費用として請求する各費目の支出と前記不法行為との間に因果関係があるとは認め難いから、請求原因(1)①の主張は理由がない。

(二)  次に、本件土地の農地転用許可や開発行為等に要した費用(請求原因(1)②)についても、原判決書添付物件目録(一)の(1)、(3)の各土地の地目はいずれももと田であったから、控訴人の前記戸建て分譲の計画によっても開発行為の許可や地目の変更手続きは必要となるし、これを宅地として造成することも必要であるから(控訴人は、分譲マンション用地としての開発と一戸建て分譲の場合とでは土地区画の方法や道路の取付け方等が異なるから、分譲マンション用に開発したものを一戸建て住宅用に変えるにはすべてをやり直す必要がある旨主張し、前掲甲第八四号証にはこれに副う供述記載があるが、証拠(成立に争いのない乙第四号証、当審証人石橋千睦の証言)によれば、控訴人は、平成三年一二月三日、本件土地を久留米大学に売却した(争いがない)が、その際開発工事のやり直しはしていないこと、その後、本件土地上には共同住宅一棟が建築されたことが認められるところ、右事実に鑑みると、右供述記載を採用することはできない。)、同様に前記不法行為との間に因果関係があるとは認め難いと言うべきである。

(三)  本件土地取得のための銀行借入利息等の点(請求原因(1)③)については、証拠(前掲甲第八四号証、成立に争いのない甲第八二、第八三号証、当審証人石橋千睦の証言、当審での調査嘱託の結果)によれば、控訴人は、本件土地の購入資金一億二〇〇〇万円を株式会社福岡銀行花畑支店から借り入れる予定にしていたところ、本件土地の開発許可申請書に銀行の残高証明書を添付する必要があったところから、平成二年六月二八日に右金員を同支店から借り入れ(利息の約定は年7.625パーセント、最終弁済期は平成三年六月二八日)、これを普通預金口座に入金して残高証明書を入手し、平成二年八月二四日に右金員から本件土地の売買残代金を支払ったこと、右借入れに伴う利息として、借入日から平成三年一二月三日までの利息合計一三八三万二一三二円を同支店に支払い、併せて右借入れの際の印紙代二四万円の負担を余儀なくされたこと、当初の計画では融資実行日が平成二年六月とされていたことが認められる。

右認定の事実によれば、控訴人は、当初の戸建て分譲の計画においても本件土地の購入資金として一億二〇〇〇万円の借入れを予定しており、その時期、弁済期も本件とほぼ同時期であった(当初の計画の下での借入金の弁済期が何時であったかは必ずしも明確とは言えないが、本件の事実経過に鑑みると、ほぼ同時期であったと推認するのが相当である。)から、右弁済期までの利息の支払い及び印紙代の支払いと前記不法行為との間には因果関係がないものと言うべきであるが、弁済期である平成三年六月二八日よりも後の利息分として支払われた利息相当額については、前記不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。なお、本件のように高額の不動産取引においては、その資金を銀行等の金融機関から借り入れることは通常予想されるところであるから、前記年7.625パーセントの割合による利息全額が本件不法行為と相当因果関係の範囲内の損害と認められる。

そうすると、平成三年六月二九日から同年一二月三日までの年7.625パーセントの割合による利息に相当する金員三九六万〇八二二円が本件で控訴人の被った損害と言うことになる。

(四)  最後に、慰謝料請求の点については、控訴人は、関係各官公署に種々の許可や承諾を求めたり、陳情するなどしたのに、被控訴人が予定建物の建築を止めたため、久留米市内において控訴人がこれまで築いてきた信用や名誉が害された旨主張するが、本件全証拠によっても、予定建物の建築ができなかったことにより控訴人の信用や名誉が害されたことを認めるに足りない。

3  被控訴人は、本件土地が宅地化され、その後久留米大学に売却されたことにより、損害は填補されたとか、損益相殺ないし過失相殺の法理の類推によって損害額を減額すべきであるとかの主張をするが、本件土地が控訴人の造成によって宅地となり、本件土地が久留米大学に売却されたことは前記認定のとおりであるものの、本件土地が宅地化されたことにより前記認定の借入利息相当額の損害が填補されたとは解し難いところであるし、右損害と宅地化との間に直接の関連性はないから、損益相殺の対象になるとも思われない。また、本件土地の売却の点については、前掲甲第八四号証によれば、右売却は、本件土地の取得に要した費用や借入金の金利負担に耐えかねてやむなく行ったものと認められ、不法行為とは直接の関係がないし、造成の目的であった分譲マンション用地として売却できたわけではないから、これにより借入利息相当額の前記損害が填補されたと認めるに足りず、損益相殺の対象にもならないと解するのが相当である。そして、本件が不動産取引の専門業者間の取引であることを考慮に入れても、前記認定の本件の事実経過、殊に被控訴人の主導的な行動等の事実に鑑みると、本件において過失相殺をすることは相当でないと言うべきである。

4  以上によれば、控訴人の予備的請求は、三九六万〇八二二円及びこれに対する不法行為の後の日である平成三年七月六日から右支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

三  よって、主位的請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、当審における予備的請求については、主文二項で認容した限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官有吉一郎 裁判官奥田正昭)

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